「THE STONE TABLE」





　「で，ルクレアとラルショルク，どちらの石舞台で劇を演じます？」と，リグヴィル。

　「敵地の，ど真ん中でやるか，それとも此方の勢力圏内でやるか，どっちが良い？」と，

ルシエル。

　「敵地の方が面白いですが，観客のことを考えればルクレアの方が良いでしょう」

　「うんうん。ではルクレアの石舞台（Stone Table）ということで準備を進めよう」

　「はい」

　「ラルショルクの石舞台ではフェブルが舞を舞ったからな」と，ルシエルが苦笑。

　「是非にも拝見したかったですね」

　「神狩りの剣を鍛えるためにガブリの霊力を借用するというのはフェブルならではの妙

手だな」

　「ですね」

　「今は最終段階の調整のためにソリスヴァリスでイシュラムと一緒に頑張ってるらしい」

　「ほう」

　「で，マラドの裏切りを贖うということで良いのだな？」

　「マラドには可愛そうですが」と，リグヴィルが苦笑。

　「全く誰に似たのだか」と，ルシエルも苦笑。

　「父上に似たのでは？」と，リグヴィル。

　「私は人猿に手を出したことはないような気がする」





　ソリスヴァリスを下ること南南西28キロの低地にミシス城がある。

　幅150メートルの堀を廻らした一片666ｍの石垣造り典型的な沼城である。

　侵入路は北に細い１本道があるのみであり，人馬の進み難い堅固な城である。

　光暦4047年，マリス島のルシス城や，ミシス北方のルミス城と同時に築かれたが，未だ

戦場となったことはない。

　リグヴィルの３男であるマルドが城主として守備している。

　因みにルミス城は石舞台の南28キロ地点にあり，ルミスより更に南東方向に65キロ程で

オグルストルに到達する。



　ミシスから南南東32キロの地点に古代ルクレア時代の皇帝たちの陵墓である「石舞台｣

がある。

　直径544ｍ，高さ44mの，土を盛って造った人工の円形墳丘墓の上に円柱状の巨石が，

円環状に並べられている。

　環状列石の中央には東西南北４方向に人面の彫られた円筒状の巨石が配置されている。

　神聖ルクレア帝国皇帝であり，四界の支配者の象徴でもある皇帝石である。

　皇帝石の上では，年に数回，ルクレア系の神々を勧請する儀式として，また神々への捧

げものとしての神楽が催される。

　冬至祭，夏至祭，春分祭，秋分祭などが，夙に有名である。

　当然，オグル政庁からの弾圧はあるのだが，長い年月の間に半ば形式化され，神の寄代

となった人間が，儀式終了後に捕縛される程度である。

　捕縛された寄代が，どうなるかまでは確認されていないが，殆どの場合は放免されてい

るのだろう。

　寄代には基本的に妙齢で美貌のルクレア神殿の巫女が選ばれるが，男性であったことも

古今例がない訳ではない。

　要はトランス状態に入り易いパーソナリティーなら誰でも構わないとさえ言えるだろう。

　トランス状態とは，恍惚感に支配された状態であり，言うなればエクスタシーである。

　「視聴覚器官を通して脳内神経が刺激され，脳内麻薬物質（エンドルフィン）が作用し，

ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質を多量に放出された状態」

　つまりは，ある種のレセプター障害者なら確実にトランス状態に入れるということだ。

　あるいは，ドラッグを使うのも悪くない方法である。

　因みにルクレアのルクレア系の神殿は石舞台の東北東28キロの聖域丘陵地（総面積600

平方Km）に何箇所かあるが，何れも廃れている。

　（注・シンガポールの面積が692.7平方Kmらしい）

　バトが祭祀長を務め，リグヴィルの娘らが補佐をするルクレアのルシエル神殿も，未だ

建設途上にある。

　ルシエル神殿はルクレア街道の北に面し，総面積350万平方ｍ広大な神域を持つ。











　神殿は幅141ｍ，奥行き300ｍ，高さ110ｍ（彫像部分を含まない）

　後宮は地上10階，地下２階からなり，親族以外，男子禁制となっている。



　ルシエル神殿の西南西12キロにはイシュラム神殿，北西12キロには新設のミスラ神殿が

あり，その他にも数多くの付属施設が点在している。

　光暦4047年，ラリス沖，戦艦ルシス艦上でのルシエルとレグプロフの会見で，ルクレア

神殿の聖域に関する話し合いが持たれた。

　その席上で，レグプロフはルクレア神殿聖域の自治権回復を金烏衆に確約している。

　その後，オグル以外の諸族（ワークリーチャーや巨人族，そしてルクレア系諸族）によ

る越境が相次ぎ，半ば亡命都市として機能している。



　不死鳥は炎を浴びて甦る。









　光暦4060年，魔都パキシスでフェブルとインリの２度目の直接対決が見られる。

　天空に，相次いで赤色と青色の妖星が出現。

　人家は鳴動し，爆炎が彼方此方で巻き起こり，虚空では大音響が鳴り響いた。

　北西から青い稲光が，南東から赤い稲光が同時に輝き，やがて双方の光が，ぶつかり合

っては砕け散った。

　衝突が起きる度に物凄い光が煌いて雷鳴が轟き，天地は丸で暴風が荒れ狂う炎の柱を吹

き上げるかのように明るくなったと記録されている。

　今回の，この戦いではフェブルの側に多少分があったようである。

　但し，魂の消滅までには至らなかったらしい。

　何合かの衝突を繰り返した後，青い光は赤いの光を呑み込むような形になり，そして赤

い光は完全に消滅したという。



　暗黒竜インリ，地球圏を離れ，月の裏側に逃走する。







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