エピローグ　波を鎮めるもの





　ナギとの長時間に亘る激しい戦いで，疲労の色も濃いルシエルは，リク

ヴィル等パーティーにスンリゴネレトの財宝を運ぶため，船を２隻貸し与え

る。

　ナギが廃城ロイスの地下洞窟に秘匿していた光の帝国ルクレアの最先

端科学技術の結晶である黄色い戦艦マリスと白い戦艦ルシスである。

　両艦の命名者は，言うまでもなくリグヴィルである。

　本来は沿岸警備用に建造された1000トン程度の軽駆逐艦に過ぎなかっ

たのだが。

　全長80ｍ，全幅10ｍ，マストを除く全高10ｍ，喫水４ｍ，速力，排水量，乗

員数・積載量等は不明。

　帆を張れば普通のソーラー帆船としても航行可能だが，マルスの艦長リ

グヴィルや船員として乗り込む烏衆や人狸，人獺，人鼠たちに操船技術は

ない。

　そこでルシエルは，ウェセロア南部のアレクシスにある＜イシスの神殿＞

から，イシスとの間に生まれた９人の戦乙女の中から３女セレスと４女エリ

スを召喚する。

　当面はセレスにルシスを，エリスにマリスを，各々艦長として操艦させよう

というのだ。

　そしてその下にルクレア地中海を担当する金烏２名が副官として就任し，

航海士として乗り込む銀烏を束ねることとなる。

　しかし未だ訓練途上にあった銀烏たちの操船は覚束ない。

　そこで更にルシエルは＜ナギの宝珠＞を使い，ナギの息子たちを召喚，

ナギの息子たちにマリスとルシスを曳航させることにした。


　　　　　１


　廃城ロイスの地下海底洞窟から海路150キロ。

　凪いだ紺碧の海をナギの息子たちによって，のんびりと曳航されてきた２

隻の戦艦はポルタプルスに到着。

　そこでリグヴィル一行と，乗員として志願した人狸たちを乗船させることと

なる。

　アグたちがスンリゴネレトの地下道をキャストルムの地下を経由してロイ

スの地下まで運んできたナギの財宝はリグヴィルの国作りの基礎やルクレ

ア神殿とルシエル教団の復興資金となる。

　またイシュラムの聖域の整備や廃城オグルストルの地下迷宮化，その他

諸々の事業にも使われることになる。


　　　　　２


　ルシエルから受け取ったマリス艦上で，リグヴィルと再開を果たしたサリ

ス海賊艦隊提督ブラフィー・ハ・ブレチマンは，リグヴィルに対し臣下の礼を

取る。

　そして更にリグヴィルから提示された２つの依頼を快く受ける。

　補助艦艇の建造とオグル海賊から乗組員を募集する業務である。

　補助艦艇には旗艦となる重装備の巡洋艦，軽装備の高速巡洋艦，軽装

備の高速駆逐艦，輸送艦等が含まれる。

　艦艇は総て木造鉄甲船であり，３門の大砲を装備した重巡で100名程度，

軽巡で50名程度，駆逐艦で30名程度の海賊が搭乗する。

　烏衆が各地の戦場から拾ってきたオグルの孤児たちの多くもリグヴィル

の海賊艦隊へと参入する。

　最初のうちはサリスの海賊衆と烏衆，そして獣人たちの間でイザコザが

絶えなかった。

　しかし烏衆に育てられたオグルたちが緩衝剤となって次第に表立った対

立はなくなっていった。

　対立の解消に当たってはブラフィーの指導力によるところも決して小さく

はなかった。

　ブラフィーを見出したリグヴィルの慧眼恐れ入るといったところだろうか。


　　　　　３


　光暦4020年夏。

　ナギを倒したリグヴィルは，――実際に倒したのはルシエルだが――ソリ

スヴァリスに戻り，傭兵仲間だった巨人のビブド，ファルグルの盗賊ヴァレ

等を手下に従え，海賊や盗賊の親玉になる。

　クレルグルの呪い師バトは金烏衆からの依頼を受け，ルクレアのルシエ

ル神殿を復興させる責任者となる。

　ヴィリス（スンリゴネレト）とパルス（スペアルストネ）のルクレア神殿はソセ

ロアの正副金烏が常駐し，ソセロア烏衆の活動拠点として整備される。


　　　　　４


　魔都の銀狐フェブル・エレヴェンスは配下として同行していた老狐ガスト

ンと共にパルスの温泉に逗留中，スンリゴネレトが奪還されたことを知る。

「これでは魔帝の元には戻れんな」

「どう致します？」

「狂帝の元にでも奔るか」

「悪くないですね」

　ふたりの狐は笑い合った。


　　　　　５


　リグヴィルがナギを追い払ったため，その後何百年にも渡ってソセロア大

陸は大旱魃に襲われ，その為，急速に砂漠化が進行することとなる。

　追い払われたナギは北の海の果てに去り，そこの海底――実際は最初

から北東諸島近辺の海底洞窟がナギの根拠地であり，単に大渦と繋がっ

ていただけの話なのだが――で，ルシエルから受けた傷を癒しているらし

い。

　そして時折，強烈な暴風雨をルシエル神殿に向けて発するが，何分コント

ロールが悪く，滅多にルクレア本土に被害を齎さない。

　しかしこれより13年の後，ナギの放った大暴風雨が目標を大きく逸れて

帝都パキシスを直撃，帝国全土に甚大な被害を与えたこともある。

　これを契機に魔帝国の政情が大混乱に陥るだから，世の中，何が起こる

か判らない。

　こうして＜竜殺しリグヴィル＞の家系は末代まで，ソセロアのオグルから

怨嗟の声を聴かされることになる。





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