「エクセルシス」





　ルシエルの御座とされる聖なる山エクセルシスは，別名＜大いなる神の宿る山＞とも呼

ばれている。

　リグヴィルの居城マリスからだと，南南東の方角に直線距離で約1000キロの位置にある。

　マリスの海を超え，イシュラムの聖域ソリスヴァリスを超え，廃城オグルストルを超え，

ルクレア高原を超え，ルクレア山脈を超えての1000キロだが。



　標高3450ｍを超える霊峰エクセルシスは，ルクレアの南の地である東西に細長い南ルク

レアの中心部に位置している。

　光の神ルシエルを祀る神殿の総数は1000を超え，センチネル（Sentinel）と呼ばれる，

神の門番である警護兵の総数は３万を超えるとも言われている。

　当然のことながら，金烏衆や闇夜の鴉たちの根拠地でもあり，秘薬MRSL＜ルシソタン＞

の精製工場も此処にある。

　頂上にはクラウド・ドラゴン（Cloud Dragon）のクエスと，その子供たちが巣食っている。

　ルクレアのルシエル神殿を居に定めた光の神ルシエルも，時々は遊びに来ているようだ。



　Ｅxcelucis



　エクセルシスの南南東約100キロには東・南・西の３方が切り立った崖となった天然の

要害ナヴィス（Navis）がある。

　標高は1230ｍで，切り立った崖の高さは凡そ200ｍにも及ぶ。

　２年前，魔帝によって魔都パキシスを追われた狂帝は，光暦4042年，此処ナヴィスに於

いて反撃の烽火を上げる。

　狂帝が仇敵の地エクセルシスに程近いナヴィスを選んだのは，帰参した魔都の銀狐フェ

ブル・エレヴェンスの献策による。

　大いなる賭けではあったが，あるいは魔帝からの攻撃が鈍るのではと読んだのである。



「策士，策に溺れんようにな」と，肩越しに狂帝の取り巻きの一人から冷笑を浴びせられた

フェブルは，

「泳げる策士は溺れんよ」と薄笑いを浮かべながら振り返りもせずに答えたと伝えられる。



　魔帝側は数倍する兵で城砦を攻囲するが，フェブルを中心とした狂帝側は，これを良く

凌ぎ，最終的には魔帝側に完全勝利する。

　この歴史的な勝利は，同時多発的に起こったオグルを中心とする反魔帝勢力の一斉蜂起

にも起因する。

　また，フェブルの依頼により，金烏衆がセンチネルを援軍として狂帝側に参加させたこ

とも勝因となった。



「御久し振りですね」

「うむ。元気にしていたか？」

「はい。小父様こそ，御変わりありませんでしたか？」

「うむ。実は，今日は昔馴染みの戦友としてのジュディスをではなく，エクセルシスの高官

としてのジュディスを訪ねてきた」

「はい」

「知っているとは思うが，どうもパキシスでの戦況が思わしくない」

「はい」

「そこで一時，陛下の軍を戦略的に撤退させようと思っている」

「はい」

「新たなる拠点に此処エクセルシスに程近いナヴィスを考えている」

「はい」

「看過して貰えれば例の＜鏡＞をエクセルシスに返還しようと思う」

「はい」

「どう思う？」

「悪くない話かと」

「エクセルシスの上層部と掛け合ってくれるか？」

「引き受けましょう」

「感謝する」



　山上から射掛けられるセンチネルの長弓隊の威力は凄まじかったと伝えられている。

　金烏衆による評決は参戦・非参戦共に５分５分だったが，神意を問うた結果，参戦と決

まった。

　ルシエルとしては，どうやらオグルの勢力を殺ぐためには，今回は狂帝側に付いた方が

良いという判断だったようだ。







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