「リグヴィルの黄金竜退治」
光暦4042年５月の魔都陥落後，リグヴィルと「闇夜の鴉」たちは戦艦マリスを駆って，
長躯ルクレア大陸中西地方に遠征する。
この遠征には，ルシエルより出生の秘密を聞かされた魔都の銀狐も同行。
海路7000キロ，陸路250キロ。
世界最高峰の火山ルクレア（標高7600メートル）の地下８層からなる迷宮最深部で金竜
アガル（AGAR）を討ち，「生命の杖」を手に入れる。
が，苦労した割には大したアイテムではなかったらしい。
この戦いでリグヴィルとフェブルは互いの力量を認め合うこととなる。
しかし，未だ腹違いの兄弟だということは伏せられていた。
光暦4042年６月，暗黒竜の憑依した狂帝ラレスは，再び絶対主義，全体主義に傾き，
魔帝独裁を開始する。
光暦4044年10月，狂帝ラレスとレグプロフ将軍との仲が険悪となる。
これは同年７月に遠東地方で起きた反狂帝派の叛乱に端を発する。
光暦4045年１月，帝国からルクレアのマリス島，ヴァリス島，ミシス島，及びマリス海
に浮かぶ島々の大部分，そしてルクレア本土北岸の一部，北ルクレアのロイス島，ルクレ
ア海に浮かぶ島々の一部を恩賞に貰ったリグヴィルは，プロブリグ伯として居城マリスの
建設や領内の整備，旧勢力残党の討伐に明け暮れる。
このときの残敵掃討作戦では，ビブドの３人の息子たちが活躍したとの伝承が残る。
活躍するに至った理由というのが馬鹿馬鹿しい。
父親であるビブドの尋常ならざる浮気が事の発端だった。
リグヴィルがオグルの地方領主となって最初に手を付けたのがマリス，ヴィリス，ルシ
ス，そして古ルクレア港の整備と修復だった。
そして，ヴィリス島の西南の沖合いの浅瀬には人口島ミシス要塞の築造。
これらの事業には，ナギの息子たちを散々酷使したらしい。
居城マリスの建設には，ビブドを始めとする巨人族や，アグと彼の息子たちの協力を仰
いだ。
アグたちは自らの居城オグルストルの建設と同時進行，そしてバトはルクレア神殿の復
興とともに，領内各地に学校や医療施設などを順次整備していった。
国を作るためには，先ず教育と国民の健康が先決である。
リグヴィルとバトが作った学校は，あらゆる種族に解放されたオープン・スクールだった。
５キロ四方に１つ程度の４年制の初等学校。
幾つかの初等学校を纏めた４年制の中等学校。
更に幾つかの中等学校を纏めた４年制の高等学校。
そしてその上に，４年制の最高学府＜マリス大学＞をポルトマリスに開設した。
また，ルクレアには宗教指導者養成のための＜ルクレア学院＞を，ソリスヴァリスには
魔術師養成のための＜ソリスヴァリス魔術学校＞を，そしてポルトヴァリスには軍人養成
のために＜ヴァリス士官学校＞を開設した。
医療施設は，領内各地に診療所を網羅し，その中核として，ポルトマリスに＜マリス病院＞，
ポルトヴァリスに＜ヴァリス病院＞，ロイスに＜ロイス病院＞，ルクレアに＜ルクレア病
院＞と４つの拠点を設けた。
学校職員や医療従事者の大半は，エクセルシスからの派遣を仰いだ。
高等学校の学区には必ず，戦災孤児のための自立支援施設や，戦病者や身寄りのない老
人のためのホームを設置した。
これらを賄う資金には，海運から発せられる潤沢な利益が惜しむことなく注ぎ込まれた。
全ての事業に共通した理念として＜神の前の平等＞が揚げられ，この理念は国民に徹底
された。
公正な裁判と，理に適った公平な税制度と共に。
領内各地には護民官を置き，またリグヴィル直属の巡検士が隠密裏に，また明らさまに
堂々と官吏の不正を取り締まった。
犯罪に対して，リグヴィルは寛容ではなかった。
この辺り，国主となってからのリグヴィルの，潔癖症的な一面が垣間見られた。
後の世に，リグヴィルのことを＜義の教師＞とか＜義の導き手＞とかと歴史家が書物に
記すこととなる一因である。
この苛烈な罪罰主義の御蔭で，リグヴィルの領内からは盗賊も山賊も海賊も消えた。
尤も，リグヴィル自身が盗賊や山賊，海賊の首領様なのだから，リグヴィルの領内では
悪辣な凌ぎをしなくなったというだけの話に過ぎない。
他国で荒稼ぎし，リグヴィルの領内に持ち帰る。
また，風俗犯罪撲滅のために，売春婦の国家管理を行ったりもしている。
官札を持たない娼婦は，須く強制収容されることになった。
これを以って，リグヴィルの偽善者の一面を問う声もあるが，他国に比べて，性病の罹
患者が著しく少なく，また性犯罪も驚くほど減少したことを鑑みると，強ち偽善とは言え
ないのではないだろうかと反論してみる。
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