「大地の牙」
マリド，マリリン，アドニス，イイクンの４人はウェセロアに残り，ジュディの指導と金
烏衆の後援を得て，反オグル組織「大地の牙」及び「大地の豚」を結成するために力を尽
くす。
「大地の牙」は火竜ハウルの餌用としてレヴィ神殿近くで「飼われて」いた人狸，人狢，
人狐，人狼，人熊，人虎などのワークリーチャーが中心に。
ウェセロア川の水虎や北ウェセロアに棲む黒い肌の人豚らが加わり，ジャングルに身を
潜めつつ，オグル系の神殿に対して放火略奪を繰り返して名を上げる。
彼らの合言葉は「Fire which is not known.」
意味は不明だ。
１
「大地の牙」は先ず，東ソセロアのフィリス（ＦＩＬＩＳ）湾岸沿いのカカオ豆農場やコー
ヒー豆農場で奴隷として酷使されていたファルグルの解放に力を入れる。
しかし，武器を取って共に戦おうというファルグルは少なく，次第と劣勢となる。
２年間に渡るオグルとの過酷な戦闘により，結成当初居た「大地の牙」のメンバーも，
820名から120名まで激減。
これは投降したオグル兵への虐待を認めなかったマリリンとマリドの方針が獣人たちに
受け入れられなかったことにも起因する。
「復讐としての虐待など解放軍にあるまじき野蛮な行為以外の何ものでもない」
しかし，この２年の戦いの中でファルグルからの支持は次第に高まっていき，志願する
農民兵が加速度的に増えていったのも紛れもない事実である。
その点ではマリリンとマリドの基本方針は間違ってはいなかったと言えるであろう。
4050年，マリドたちの努力は結実し，ようやく解放運動が軌道に乗り始める。
拠点をフィリスに構え，マリドを首班に，正式に「ウェセロア反オグル武装戦線・大地
の牙」臨時政府が設立される。
もちろん，マリスのリグヴィルたちからの全面的支援に負うところも大きかったことは
言うまでもない。
種 族 人 口 パーセント オグル ２億９４５万人 ６６．７％ ファルグル ５０００万人 １５．９％ ミニングル ５０００万人 １５．９％ クレルグル ２６７万人 ０．８％ 貴族・皇族 ２００万人 ０．６％ 獣人族 ４万７千人 ０．０９％ 巨人族 ３千人 ０．０１％ ３億１４１７万人 １００％
（ウェセロアの人口が4000万人ほどなので，各種族とも平均して約12.7％がウェセロア
に居住している計算になる。）
「大地の豚」はルシエルの神威を目の当たりにしたオグルの難民たちが中心となって，
種族を超えて光の神ルシエルを祀るための秘密宗教団体として結成された。
当初は教団幹部としてエクセルシスに居た自由オグルが金烏によって派遣され，難民の
救援活動の指導に当たっていた。
中心として活動していたのはマリリンとジュディである。
結果として，それはオグル難民の，光の神ルシエルへの帰依と崇拝を呼び起こし，教線
の拡大に繋がった。
ルシエルは，これを喜び，金烏衆を通じて，彼らに「大地の豚」という団体名を与える。
オグル中心の反帝国組織に，ルシエル教では禁忌とされる穢れた生き物である「豚」の
名を下賜したところに，ルシエルの底意地の悪さが見え隠れしていて面白い。
ウェセロアではソセロアのようにミニングルの統一王朝というものがなかった。
北部ミニングル族長連合，南部ミニングル族長連合，東部ミニングル族長連合，西部ミ
ニングル族長連合，そして何れにも属さない小規模な集団が多数存在していた。
ウェセロア・ミニングルの大多数は自由オグルや獣人との交流を頑なに拒否し，ファル
グルのみと交易しているという状態だった。
自由オグルとは，エクセルシスで育ったオグル及び「大地の豚」に帰属するオグルの総
称だといって良い。
リグヴィルの４男であるマリド・ブラゴールとルクレアのミニングル王アグの息子アド
ニス・アグド・ヴァンデルホルン。
彼らはレヴィ火山の東方700キロ，太古，月神ガブリの放った「神の怒り」の攻撃で消
滅させられた港湾都市ロカがあった半島の西部フィリス（FILIS）に拠点を築く。
そして「大地の牙」や「大地の豚」と連携しながらウェセロア・ミニングルの統一を計
ることになる。
後に「大地の牙」と「大地の豚」，ウェセロアの「ルシエル教団」本部（主祭祀長マリ
リン）も，マリドの城塞内に設置される。
しかし狸の尻尾を持つマリドやマリリンに対する風当たりは強く，統一は困難を極める。
「支配の王錫」と，マリス海賊艦隊からの援助がなければ，獣人たちさえ纏めることは
不可能だったといって良いだろう。
マリドとアドニスの城塞は小高い丘を利用して築かれた天然の要害でフィリス城と呼ば
れた。
フィリス城はミニングルの城塞らしく当然のことながら大半の施設は地下に設置されて
いた。
マリド，マリリン，アドニス，イイクン，そしてジュディは，この難攻不落の要塞を拠
点に，ノスタルク黒太子や火竜ハウル，そして黒死病の脅威と戦う。
そして獣人の開放とルシエル教（及びイシュラム教，ミスラ教）の布教に努め，最盛期
には125万もの信者を獲得することになる。
２
光暦4048年，皇帝リグブリは皇后の懐妊の報を聞き，怒りと屈辱感で憤死してしまう。
そして皇后の生んだレグプロフの子ウォルスリグ（WORSLIG）が次の第98代の魔帝とな
る。
光暦4049年，レグプロフは息子ウォルスリグの摂政となり，暗黒帝国を支配する。
レグプロフの帝国簒奪事業の全ては，ルシエルに操られた結果である。
しかし狂帝の抵抗も凄まじく，各地で激戦が繰り広げられる。
同年９月，当時10歳だった狂帝の第２皇子ノスタルク（NOSTALUC）は，東ソセロア（パ
ルス）中部に拠点を移して，反レグプロフの烽火を上げる。
ノスタルクの元には，絶えず東部方面軍の参謀として魔都の銀狐フェブル・エレヴェン
スの姿があった。
同年同月，ルシエル，ルクレア大陸中西部ヘアドリヴ（HEADORIV）沖で狂帝の第３皇子
率いる艦船5000隻からなる西部方面軍を暴風雨を起こし沈める。
この暴風雨での死者行方不明は数十万に達したと記憶されている。
光暦4050年８月，狂帝ラレスが52歳で病死する。
「玉骨は縦北山の苔に埋もるとも，魂魄は常に南闕の天を望まん！」
暗黒竜の魂は東ソセロアに拠点を移していた第２皇子の黒太子ノスタルク（NOSTALUC）
に憑依する。
この年，魔都パキシスで鴉衆と赤い狐の戦いが激しく繰り広げられ，魔都に大火を齎す。
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