「西の輝けるもの」





　光暦4059年，プリロア侯ルビドゥスピヌスが73歳で死去。

　このあたりでリグヴィル１世の軌跡が完全に途絶える。

　意識的にリグヴィル＝ミスラを印象付けるための姑息な雲隠れだったという説もある。

　しかし真実は，こうである。

　ある日あるとき，リグヴィルがルシエルに対して，

　「フェブル殿はルシエル様の御子様だったそうですね？」

　と訊いた。

　そのときルシエルは，

　「そそ。あれの母親は人狐族の娘だった」

　「さぞや，お美しい方だったんでしょうね？」

　「うんうん。雪のように真白い娘だったね」

　「ほう」

　「お前の母親も頗るつきの美人だよ？」

　「え？」

　「聞いてなかったのか？」

　「は？」

　「お前の母親はウェセロアのアレクシス（Alexcis）神殿の＜天国への階段＞を守護す

る智天使だ」

　「はい？」

　「イシスあるいはイシュタルという名で，鷲の翼に金色のライオンの身体を持ってる」

　「お知り合いだったのですか？」

　「うん。まー妻の一人だ。ルシエル・オクシデンス（Occident）という名も持つ」

　「まさか・・・」

　「うん？」

　「私は，そのイシス様と，ルシエル様の・・・」

　「そそ。誰も教えてなかったのか」

　「はい・・・」

　「じゃあ，これからアレクシスのピラミッドまで，イシス（Isis）に逢いに行くか？」

　「はあ・・・」

　「但し，なぞなぞが好きなので，解けるまで帰らせてくれないかも知れない」

　「はい」

　「それに彼女たちには変わった風習があって，毎日，夜明けに太陽を礼賛している」

　「彼女たち？」

　「神殿の戦乙女であり，お前の姉や妹だ」

　「私に姉妹が？」

　「うんうん。いっぱいいる」

　「はぁ・・・」

　「で，毎朝太陽礼賛の儀式に付き合わされる」

　「なるほど」

　「ま，覚悟が必要だ」

　という訳で，リグヴィルは母親の元で長期に渡って缶詰になっていたのである。

　母親の出す謎々が解けなかったので。







　「天国への階段」とはウェセロア大陸南西端にあるアレクシスという都市近くの砂漠に

ある古代ルクレア以前からの遺跡である。

　伝説では，神々が巨人たちを使役して建造したと言われている巨大な階段状のピラミッ

ドである。

　大きさは，底辺の一辺が800ｍ，高さは200ｍにも及ぶ。

　アレクシスには，これ以外に２つの巨大ピラミッドが残されており，大きい順に「太陽

のピラミッド」，「月のピラミッド」，「金星のピラミッド」と呼ばれている。

　３つのピラミッド群の近くには，古代ルクレア時代，「星にゆく船」（スペースシャト

ル）の発着場があったとも伝えられている。

　ピラミッド自体，航空管制システムの中核となっていたらしい。

　そのため，未だに古代ルクレアの数多の叡智が隠匿され，イシスたちが守っているらし

い。

　近寄る者は，オグルであれ，ルクレア系諸族であれ，他のワークリーチャーであれ，

尽く殺害される。

　戦乙女は光り輝く黄金の兜や鎧，そして円形の楯で装備され，白い有翼馬に騎乗して，

主として槍や投斧で戦う。

　美しい容姿に似合わず，どうやら気が荒いらしい。



　人類の守護者アレクシス。

　アレクシスは，ウェセロア第２の都市であり，レアルマ（人口255万）に次ぐ，約200

万の人口を抱える。

　古代ルクレア時代より鉄鉱石や石炭の集積基地であり，世界最大規模の製鉄基地でもあ

る。

　古代ルクレア帝国第６代皇帝アレクシス１世の名を冠する，この重要都市は，未だにル

クレア貴族の影響の強い都市でもある。

　アレクシス要塞都市の地下には，戦艦ルシスと戦艦マリスの換装基地も存在する。











　　　　　NEXT　　　TOP